切手の思想家たち2022

世界の切手のうち、思想家・科学者・芸術家を中心に人物切手について自由に書きます。題名は故・杉原四郎先生の『切手の思想家』(未来社)をリスペクトしてつけました。

吉田一郎と蒙疆(もうきょう)切手

吉田一郎、といってもほとんどの人は知らないだろう。僕も10月号の『郵趣』で、内藤陽介さんの連載「日本切手150年の歩み~郵便創業150年に寄せて」の最新回「逓信記念日制定記念小型シートの発行(1934年)」を読んで改めて想い出した。吉田一郎は戦前の日本の郵趣界の著名人であり、切手商でもあったので郵趣が日本に定着するのを実益もかねて振興に尽力した。僕が彼の人生を知ったのは、やはり内藤陽介さんの名著『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)の記述を通してだ。今回の日本で最初の小型シートである逓信記念日制定記念小型シートの発行やその後の彼の「苦闘」は、日本の官僚制の硬直性、知識人たちの高慢さ、日本の占領地政策と郵便事業を理解し、知るうえで有益である。個人的には内藤さんに吉田の評伝を書いてほしいくらいである。

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この制定シートは、日本の記念切手の中で指折りの高額切手でもあり、日本の切手をそれほど熱意を込めて集めてないという言い訳からすると(笑)、当然に保有していない。画像は未使用だが、「特印」を押したものが内藤さんの連載に掲載されていて、もし将来買うならば(いつかな? 笑)それを購入したい。

 

吉田の興味深い人生は、内藤さんの本や連載にまかせるとして、彼は当時の切手政策を担っていた逓信博物館の関係者に接触し、その後その影響力を高めていったが、日本での取り組みは苦難と挫折続きだった。その不屈の精神はものすごい。やがて彼は日本ではなく、当時の蒙疆(もうきょう:内モンゴルの一部)での彼の会社が制作した記念切手発行に至る。吉田の情熱は魅力ある日本の切手、国際的な顔にもなるその切手の魅力を高めようという情熱に裏打ちされていたが、その情熱がほぼ具現化したのが、日本ではなく、むしろ日本の傀儡政権のもとであったことはなんとも表現できないものがある。しかもその情熱の結晶も、日本の官僚たちはちんけな責任回避によって継続させることができなかった。この経緯もぜひ内藤さんの本を参照されたい。

 

この切手は蒙疆で吉田が手掛けた切手である。蒙古郵電事業五周年切手。蒙疆切手は運よく手元にあるので以下に。

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外国切手に描かれた日本 (光文社新書)

外国切手に描かれた日本 (光文社新書)