切手の思想家たち2022

世界の切手のうち、思想家・科学者・芸術家を中心に人物切手について自由に書きます。題名は故・杉原四郎先生の『切手の思想家』(未来社)をリスペクトしてつけました。

19世紀の写真家ナダールの文化的広がり

ナダール(1820-1910)は、19世紀を代表する写真家として知られています。今年は彼の生誕200年を祝った記念切手が、フランスから出ました。ナダールの試みのひとつである自転ポートレート。これは同じ位置にカメラをすえ、自身が回転盤の上に立ち同じ姿勢を撮ったものだと思います。しかしこのフランス切手も切手大国の矜持を示す意欲的な「作品」ですね。切手の本来の利用が想定できない(笑)。

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 切手にはナダールの署名がありますが、あとよく見ると切手でそもそも利用できるのは真ん中の四枚だけですね。それとシートの右下方にはイラストがあり、シート地の表記も読むと、パラパラマンガのようにできると説明されてます。ただこの(数千円して紙質も薄い)切手をそのために分離して、本当にパラパラマンガにする人は少数だと思います(笑。

 

ところでナダールは今回、この切手を調べる過程で、あらためて19世紀後半のフランス文化を考える上で決定的に重要な人物だな、と思いました。単なる肖像写真を確立しただけではなく、その活動は、まさに19世紀後半のフランス文化の核心と野心的な広がりをもったものだと思いました。風刺画という形での「マンガ」の洗練された領域の確立、また気球を利用した空中撮影などは冒険的で先駆的な試みでもあります。

 

それと多くの文化人たちをつなぐ役割を果たすなど、その活動の全貌はまだ十分に日本では理解されてないのではないでしょうか。もちろん僕も例外ではなく、平時では頻繁に利用する早稲田大学図書館が新型コロナ危機で限定利用なので、なかなか資料を活用できないのが残念ですが、例えば藤原書店が3年ほど前に出した以下の評伝などはぜひトライしてみたいと思います。

 

時代を「写した」男 ナダール 〔1820-1910〕

時代を「写した」男 ナダール 〔1820-1910〕