切手の思想家たち2020

世界の切手のうち、思想家・科学者・芸術家を中心に人物切手について自由に書きます。題名は故・杉原四郎先生の『切手の思想家』(未来社)をリスペクトしてつけました。

ラビンドラナート・タゴールとアマルティア・セン

75年前に、米国によって原爆が広島、そして長崎に落とされたこの両日を沈黙の祈りとともに振り返るとき、僕はやはり理性と自由の大切さを思います。感情や怒りではなく、理性の光の中で、物事を振り返る。悲惨な現実、そして歴史の中で埋もれていく事実を照らすのも、感情や怒り、ましてや政治的な煽動ではなく、それは(他者の在り方に寛容な)理性であってほしいし、そしてそれが行える自由な社会であってほしいと願っています。


ラビンドラナート・タゴール(1861-1941)は、偉大なインドの詩人でした。タゴール自身は、今日の独立したインドやバングラディシュを見ることもなく死んでしまっていますが、両方の国歌の作詞者(インド国歌は作曲も)であることが、タゴールの影響がもつ今日の影響を知ることができる端的な事実でしょう。

 

欧米でもそうですが、日本でもタゴールのブームが大正期にありましたが、いまではほとんど言及されることがないですね。僕自身、タゴールについて再考するきっかけになったのは10年くらい前にたまたま成瀬仁蔵の事績を調べる過程ででした。アマルティア・センが『議論好きなインド人』や『インドから考える』でタゴールについて書いていますが、「心を開いた理性の重要性」と「人間の自由の称揚」という点に、やはり今日的なタゴールの貢献を見出すことができると思います。特定のコミュニティへの従属、宗教的なセクト主義、狭隘なナショナリズムへの批判としてタゴールの思索と活動は今日的な意義をもちます。それはセン自身も強調する単一のアイデンティティへの従属を避けること、その弊害に自覚的になることだと思います。自由を抑圧する巨大国家が台頭し、自国だけでなく他国にまでその言論抑圧をしかけてきている今日(それは中国のことを主にいっているのですが、もちろんそれだけではない)、喫緊の考察すべき人物のひとりだと思います。

 

遅れましたが、今日はそのタゴールが没した日でした。以下はタゴールを記念して出された各国の切手を紹介。左からインドで出た最初のタゴールの切手(1952年)、同じくインド(1961年、生誕100年記念)、そしてベトナム(1982年)、旧ソ連(1961年、生誕100年記念)の順です。

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タゴールについては、このエントリーを書くまで知らなかったのですが、日本人の監督佐々木美佳氏によって『タゴール・ソングス』が公開されたばかりなんですね。機会があれば見てみたいです。

www.youtube.com

 

タゴールについてセンが書いた論説は以下の収録されてます。『議論すきなインド人』は昔読んで、いまは群馬の研究室にあるので、今回はこのエントリーに書くので参考にできませんでした(群馬遠いです 笑。それと各大学図書館がコロナの影響で思うように使えないのが痛い)。

 

ちなみにこのセンの論集は、センの貧困と医療の関係への考察、経済成長とケイパビリティの相補性、さらに感染症問題への分野をまたぐ知見の必要など新型コロナ危機で特に意義深い内容です。

タゴール自身の作品もその次に。

 

インドから考える 子どもたちが微笑む世界へ

インドから考える 子どもたちが微笑む世界へ

 

 

タゴール詩集―ギーターンジャリ (岩波文庫)

タゴール詩集―ギーターンジャリ (岩波文庫)

  • 作者:タゴール
  • 発売日: 1977/01/17
  • メディア: 文庫