切手の思想家たち2022

世界の切手のうち、思想家・科学者・芸術家を中心に人物切手について自由に書きます。題名は故・杉原四郎先生の『切手の思想家』(未来社)をリスペクトしてつけました。

モーパッサン

ギ・ド・モーパッサン(1850-1893)の今日は誕生日でした。というわけで今日はこれを。

 

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1993年に六枚組でフランスから出された「著名人シリーズ」の中の一枚です。他の人物は、コクトーユルスナール、アラン他です。フランスもまた人物切手大国ですね。というかイギリスと日本が先進国の中では妙に人物切手の数が少ないように思えます。イギリスは王室の人たちの肖像画=切手、とでもいう戦略を長く意図的にとってきた反動で少ないのだと思いますが、日本の方は特にそういう自明な戦略もないまま、なんだか人物切手も思い出したように発行するという感じです。方針なき切手発行国にも思えてしまいます。

 

モーパッサンは昔から日本人に愛されてきました。彼の小説家人生は10年と短いのですが、膨大な作品を残しています。最近では、19世紀の貧困や格差を描いたものとしても再評価がすすんでいるように思えます。いわゆる19世紀の「カネ」と「見栄」をめぐる話ですね。トマ・ピケティ的な格差が拡大していた時代の表象としても今日読むことができるでしょうし、あるいはヴェブレン的な見せびらかしの消費の実例としても読める作品が多そうです。

 

例えば代表作のひとつ「首飾り」は、辻潤訳が無料で読めますが、これはまるでカフカの「掟の門前」みたいにも思えます。もちろんヴェブレン的な見せびらかしの消費の小話としても読める逸品でしょう。なお辻潤は、日本のダダイズムの中心人物のひとりで著名です。

モウパンサン 辻潤訳 頸飾り

 

故・山田登世子先生がモーパッサンの短編集を編訳していたので、近いうちに読んでみたいと思います。