澤柳大五郎『ギリシャの美術』
澤柳大五郎(1911-1995)は、日本を代表した美術史家で、今もその著作『ギリシャの美術』(岩波新書)は長く愛読されているはずです。今日は澤柳の生誕日でした。
同書に紹介されている彫刻、建築物などは無数です。また同書の範囲であるキュクラデス文化(前2500-2000)からアルカイク、古典時代、そしてヘレニズムに至る時代に作られた作品は多くの切手の題材になっています。ここではアルカイク時代(前700-500)に作成された「仔羊を荷う人」を題材にしたギリシャの切手(1954年)を。
僕は大学生(1981年)の頃に、この『ギリシャの美術』を購入しましたが、その時はまだ澤柳は早稲田大学で教えていたことをwikipediaをみて知りました。本書は大学二年生のときにとっていたヨーロッパを広範囲に歴史的に勉強した教養ゼミで、自分で必要になって購入したのだと思います。一年の時には坂崎乙郎の授業をとったり、または有名な彫刻家の方とも知り合いでしたので、その影響もあるでしょう。いまでも本棚に置いて大切にしています。
『ギリシャの美術』では、さまざまな視点からギリシャ美術の特徴が解説されているのですが、ベースになっているのは澤柳の滞欧経験ですね。三カ月しかいなかったのですが、そこで彼が体感したギリシャの気候、光、大地のイメージが、彼のギリシャ美術をみる眼と一体化していることが同書を再読するとわかります。
僕もこの本を購入して数年後にギリシャに行きましたが、やはり澤柳同様に、ギリシャの光のイメージはいまでも鮮明に記憶しています。もっともギリシャはそのときクーデター騒ぎで、街には大型の機関銃をたてかけてカフェでのんびりする兵士たちとかいて異世界にきたなあ、と思ったものです。
澤柳はヨハン・ヨアヒム・ヴィンケルマンの「ギリシア芸術模倣論」を翻訳したことでも知られていますが、澤柳の『ギリシャの美術』にもその影響はあるのではないかと今回再読して思いました。ヴィンケルマンの主張は、ギリシャ美術の堕落したものがロマ(ローマ)美術であるとする説だと理解されています。ヴィンケルマンも澤柳ももっと読んでみるべきだな、と今回のエントリーを期に思っています。