トーマス・エドワード・ロレンス(アラビアのロレンス)
8月16日は、“アラビアのロレンス”ことトーマス・エドワード・ロレンス(1888-1935)が生まれた日でした。というわけでロレンスの肖像切手…ではなく、映画『アラビアのロレンス』(1962)の一シーンを用いたイギリス切手(2014)を。
ロレンスの歴史的な評価はいまだに定着していないのではないでしょうか。日本では古典的な名著である中野好夫『アラビアのロレンス』(岩波新書)でも、トルコへのアラブの反乱のキーになる人物で、アラブ諸民族の「解放」の夢を抱いていた一方で、サイクス=ピコ協定など現実には機会主義的外交を繰り返すイギリスの一将校としての位置の矛盾に葛藤する人物としてもすでに描かれていました。
中野氏の著作は名文とその洞察力で、歴史的に修正される面があるにせよ、とても面白く、今回、このエントリーを書くために読んでみたのですが、ぐいぐい引き込まれます。切手の題材になったディビッド・リーン監督の『アラビアのロレンス』もまた現代においても名作、しかも断トツの名作の地位は揺るがないと思います。現実のロレンスの評価にはさまざまな修正や新解釈があるかと思いますが、個人的には中野本とリーンの映画は、誰もがかならず読み、見た方がいい名作だと確信しています。
中野好夫氏は、ロレンスを常に、先に述べた外的な(=政治的な)矛盾との葛藤だけではなく、内面にもさまざまな矛盾を抱える人物として描いています。自己承認欲というかいまなら中二病的な拗らせ方と、他方での活動家気質の葛藤は、ロレンスの肉体への自己被虐的なとらえ方と、ホモセクシャル的な嗜好との対照とも絡んで、複雑なロレンス像を今日まで伝えています。そして映画『アラビアのロレンス』もこのさまざまな二面性が同居するロレンス像をダイナミックな映像とともに活写していて、やはり興味が尽きません。
実際のロレンス