切手の思想家たち2020

世界の切手のうち、思想家・科学者・芸術家を中心に人物切手について自由に書きます。題名は故・杉原四郎先生の『切手の思想家』(未来社)をリスペクトしてつけました。

ヴェルサイユ条約発効100周年と山形浩生訳:ケインズ『平和条約改訂案』

今年は第一次世界大戦の休戦をうけて開催されたパリ講和会議(1919年)で決議されたヴェルサイユ条約が翌年(1920年)に発効して100年を迎えます。というわけでこの中央アフリカが最近出した記念切手を。

 

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なぜ中央アフリカが? という疑問はあると思いますが、ただ出したかっただけなのかもしれません(笑)。エージェント会社発行のものなので外貨獲得目的です。普通はよほどのことがないと購入しないのですが、この切手はテーマの狙いがマニアックなのと、この小型シートはよくできているので購入しました。切手本体は有名な写真がベースで、左端からイギリスの首相ロイド・ジョージ、イタリアの首相V.E.オルランドオ、フランスの首相G.クレマンソー、そして右端はアメリカ大統領のウッドロウ・ウィルソンである。

 

シート地は、まず切手本体の下は、おそらくカバーの雰囲気からいってヴェルサイユ条約本体に各国首脳のサインの頁だろうか(間違っていたら助言よろしく)。シート地に描かれたヨーロッパの地図は、なかなか興味深い。基本はパリ講和会議後の「民族自決」を背景にしたヨーロッパ諸国の独立後の領土にそって国名やその国境が描かれている。チェコスロヴァキアオーストリアラトビアエストニアポーランドなどである。ただしソ連はロシア旧領が描かれているだけでおそらく国名がない(見逃してたらごめんなさい)。また1920年初ではウクライナソ連勢力など各派が入り乱れた激しい内戦状態だったが、地図ではウクライナの版図ははっきり描かれている。

 

そしてシート地右下方には、ウィリアム・オーペンの作になる「ヴェルサイユ宮殿、鏡の間における講和条約調印、1919年6月28日」からその半分ほどがトリミングされてデザインされていて、この切手シートの威厳を高めている。以下が原画である。

 

さて、この切手を購入してから数日後、偶然なのだが、山形浩生さんが、ケインズの『平和条約改訂案』を訳したことを知る。

ケインズ『平和条約改訂案』、結局全訳しちゃった。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」

翻訳自体はこちら

https://genpaku.org/keynes/revision/keynesrevisionj.pdf

すでにケインズの前著「平和の経済的帰結」も訳があり、これを無料で日本語で読めることは本当に感謝したい。特に『平和条約改訂案』は原著が出たときから、世界的ベストセラーの前著にくらべて地味であり、また部数も少ない。だが、この本の冒頭部分のヴェルサイユ条約をめぐる新聞・政治家・世論の意見を内部の意見と外部の意見にわけて分析する視点は、実に興味深い。前著のときにくらべて、ヨーロッパの世論が落ち着いて、かなりまともになり、また政治家たちも思うほど愚かではないということもわかってきた、そのためか緊急の議論というよりも未解決問題をしっかり把握しようではないか、というケインズの意図がよく伝わる内容である。賠償委員会の具体的な賠償額も決まり、そのためかなり細部にわたる話もある。それと経済学史的には、ケインズの『一般理論』形成に至る初期の段階とクロスする時期で(山形さんも指摘している)、超ヲタク的には興味あるところだろう。それにしてもありがたいことである。ケインズに関心のある人は恩恵を厚くうけるだろう。