このブログのタイトルにもしている『切手の思想家』の著者である故・杉原四郎先生の短文に「幸田露伴について」というものがある。これは人物切手部会会報『人物』に1998年に寄稿されたもので、掲載されたのは手書きの原稿そのものである。最近、切手の博物館でコピーしてきた。二年程前に一回読んでいるのだが、細部を忘れていた。内容は、「紅露逍鴎」という言葉を枕にして、尾崎紅葉、幸田露伴、坪内逍遥、森鴎外という明治文壇を代表する四人について、露伴が文化人切手になった坪内逍遥や森鴎外と遜色ないことを指摘して、その当時出たばかりの新文化人切手の発行を祝うものである。
なぜ幸田露伴が文化人切手の第一回にもれたのか、それは選ばれた逍遥、鴎外やまた樋口一葉、正岡子規に比べて「作品が地味」だからとしている。
「露伴の代表作『五重塔』は岩波文庫に入っているだけではなく、国語の教科書にも採用されて国民に広く読まれている。また劇化されて上演されることも多い。全集全41巻がある。兄の郡司成忠は探検家として有名で、弟成友は史学者である。また娘文は「父ーその死」など多くの作品を書いた女流文学者である」と紹介している。女流文学者という表現はいまではあまり使わないだろうが、史料なのでそのままにした。
「紅露逍鴎」のうち尾崎紅葉だけがこの短文が書かれた当時まだ出ていなかった。杉原先生は短文が書かれた五年後の2003年に没後100年なので記念切手を期待していたが、2020年の今日まで尾崎紅葉の切手はでていない。フレーム切手であるかもしれないが、把握していない。