切手の思想家たち2022

世界の切手のうち、思想家・科学者・芸術家を中心に人物切手について自由に書きます。題名は故・杉原四郎先生の『切手の思想家』(未来社)をリスペクトしてつけました。

ヘンリー・フォードの切手と高賃金政策の評価

今日は、米国の自動車メーカー、フォード・モーターの創業者ヘンリー・フォード1863年 - 1947年)の誕生日でした。というわけで、今日はオーストリアから同社創業100年を記念して、2003年に発行された記念切手の小型シートを持ってきました。

 

ドイツ語の記述が面白いですね。フォードは誰でも手ごろな価格で車が手に入ることを望んでいたが、55セントになるとは予想してなかった、というものです。55セントは切手の価格です。切手はフォードの肖像、創業100年、T型フォード、そして欧州仕様のコンパクトカーだったフォード・ストリートKaです。オーストリアの自動車販売市場は、外国車中心で、フォードは現在全体の約6%のシェアを占めています。ちなみにオーストリアはドイツとの結びつきがやはり強く、自動車に関してはドイツに部品などを提供するサプライチェーンの中核国として機能しています。

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さてフォードといえば、いまも評価がさまざまに与えられる人物で、経済学的にも昔からフォーディズムとして資本主義の生産様式として高度なものと評価する流れもあります。ここでは定番ネタになるのですが、フォードの高賃金政策についてふれたいと思います。

 

ブランシャールの『マクロ経済学』にコラム形式で昔から綺麗にまとめられているので、それを参照します。

 

フォードは一日9時間2.3ドルだった賃金を、一日8時間5ドルを最低賃金に設定しました。これによって労働者のやる気が高まることになります(効率賃金仮説)。労働者の離職率も急減、またレイオフ率もなんと62%からほぼ0%まで減少しました。平均欠勤率も大幅減。

 

ただしこの生産性上昇が、賃金増によるコスト増加を打ち消すほど十分だったかどうかは議論ありです。生産性は一年で30%から50%に増加した、そして利潤も増加した。ただこれが労働者の貢献なのか、それとも当時大ブレイクしていたT型フォードの貢献自体の貢献なのか推定が難しいと指摘されている。

 

ブランシャールは利潤との見合いでは賃金は高すぎたかもしれないが、しかし賃金を引き上げたことで、労働組合の結成を防御できたこと、フォードと会社の名声を高めたことは事実だったろう、と評価しています。