内藤陽介『みんな大好き陰謀論』(ビジネス社)
郵便学者の内藤陽介さんの新刊『みんな大好き陰謀論』(ビジネス社)を読みました。日本でも池上彰氏やその影響をうけた中田敦彦氏らのユダヤ陰謀論的な言説はいまだに影響力を持っているなかで、そのような皮相ででたらめなユダヤ陰謀論に騙されないためにも、本書は手元においておくべき必読書といえるでしょう。
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個人的には、やはりFRBユダヤ陰謀論、EU離脱ユダヤ陰謀論、そしてマルクスの反ユダヤ主義的な側面などが、高度に整理されていて便利です。FRBユダヤ陰謀論は、さすがに日本の政策論争のメインストリートでお目にかかったことはないのですが、それでも地下?論壇やまた思い出したようにユダヤ陰謀系の経済語りが売れていて、それに影響されてる人も見かけたりします。上記の池上彰ー中田敦彦氏らはその日本での潜在的なユダヤ陰謀論「好み」を煽っているのでしょう。その意味でも本書は対処療法を提供できるうえで有効です。
これはまったく知らなかった、という代表的な項目としてはヘンリー・フォードの反ユダヤ主義・ユダヤ陰謀論的な戦前の発言とその撤回・謝罪のエピソードです。
また内藤さんらしい切手を利用した解説は、やはり特に面白く感じます。謀略切手の詳細な説明は、内藤さんらしい行き届いたもので面白いです。それと内藤さんの別な著作『日韓基本条約』でも取り上げられた以下の釜山にある国連記念墓地の韓国記念切手(1960年)が、本書では朝鮮戦争でのユダヤ人への評価の変化として取り上げられています。
そのとき、戦後の『スーパーマン』のページも合わせて紹介されています。アメコミにおける「ユダヤ」問題というのがあって、一時期、日本でもスーパーマンのキャラクターのアイデンティティ問題をめぐって話題になったことがあります。増田悦佐氏のアメコミ論を契機にした論争のスピンオフ的なところで話題にした記憶もあります。例えば、以下の僕の作成したパワポに掲示してあるスーパーマンの生みの親がユダヤ人であることとスーパーマンのアイデンティティの関連をめぐる話です。このパワポに紹介した著作は、シムチャ・ワインスタインのUp, Up and Oy Vey(2006)です。同時期にはダニー・フィンゲロスがDisguised as Clark Kent: Jews, Comics and the Creation of the Superhero(2007)を書いてます。ワインスタインの本はかなり怪しいのですが、フインゲロスの本はこのインタビューを読むかぎりバランスのとれた視点を提供しているかもしれません。まだ未読なので、内藤さんの本をきっかけにして読んでみようかと思います。